奨学金の落とし穴 借りられない! 停止される!どんな時?
大学や専門学校への進学資金準備が難しい場合、まず検討するのは奨学金制度でしょう。
しかし、奨学金はいつでも誰でも簡単に利用できるものではありません。
申込みには募集期間内に必要書類を揃えて手続きを行い、利用条件を満たす必要もあります。また、一度採用されても基準を満たさなくなると、奨学金が停止されることもあります。
ここでは代表的な奨学金制度である日本学生支援機構の奨学金(国内の大学等に進学する場合)の概要、利用の流れ、注意すべきポイントやリスクについて解説します。
独立行政法人日本学生支援機構の奨学金とは
憲法の教育基本法に定められた「教育の機会均等」の理念のもと、経済的理由で修学が困難な優れた学生等に対して、国が提供する奨学金制度です。大きく分けると、返済が必要な「貸与型」(第一種・第二種)と、返済不要の「給付型」の2種類があります。
「給付奨学金」は、経済的な理由で進学をあきらめることがないようにと、2020年から新しく始まった制度です。2024年度からは、多子世帯や私立の理工農系の学部に通う学生等に対しての支援が拡充されています。給付奨学金に採用されると、併せて修学支援新制度(※1)を利用できるため、大学・短大・専門学校の学費が実質的に無償となります。
申込み方法は、大学や専門学校に進学する前の高校3年生時に申込む「予約採用」、進学後に通う学校で申込む「在学採用」、家計が急変した際に利用できる「緊急・応急採用(貸与)」および「家計急変採用(給付型)」があります。
ここでは、早期に申込むことで進学資金の計画が立てやすい「予約採用」について説明します。
※1 修学支援新制度
高等教育の修学支援新制度:文部科学省
奨学金(予約採用)の流れ
申込みから採用までの流れは下記のようになります。
① 通学する高等学校で申込み(高校3年生の春・秋 ※2)
・高校で申込み関係書類を受け取る
・日本学生支援機構の奨学金申込専用ホームページである「スカラネット」より申込み情報を入力する
・申込書類、マイナンバー関連書類を提出
② 採用候補者決定通知を受け取る(高校3年生の10月ころ)
③ 大学等に進学後、進学届の提出(スカラネットより)
④ 奨学生として採用、通知を受ける
⑤ 奨学金の振り込み開始(大学等に進学後の4月から5月)
※2 給付奨学金の予約採用の申込みは高校3年生の春のみです。
「申込み年度に高等学校を卒業予定であること」等の申込み要件に加え、採用基準を満たす必要があります。
採用基準を満たさないと借りられない(受給できない)
奨学金を利用するためには、学力、家計(収入)の採用基準を満たす必要があります。「貸与型(第一種・第二種)」「給付型」それぞれ基準が異なります。収入基準は「とても裕福なご家庭の方は遠慮してくださいね」という意味合いでのもので、収入の上限が設けられています。家族の人数や構成(扶養家族の人数)によって異なりますので、学生支援機構の進学資金シミュレーター(※3)などを活用し「わが家の場合は基準を満たしているか?」を確認してください。
※3 進学資金シミュレーター-JASSO
なお、収入については、申請前年の収入に基づく申請年度の住民税情報によって算出された支給額算定基準額で審査が行われます。「申込後に減収(失業等)があっても審査には考慮しない」とされていますのでご注意ください。
進学前(予約採用)の給付奨学金の家計基準 | JASSO
では、それぞれの採用基準についてみてみましょう。
【貸与奨学金】
① -1 学力基準(第一種 利息の負担がない奨学金)
・高等学校等における申込時までの全履修科目の評定平均値が、5段階評価で3.5以上であること。(例外有り※4)
※4 学力要件を満たさない場合であっても、生活保護を受給中で学校の推薦がある場合等は、基準を満たす者として扱うことができる。
① -2 学力基準(第二種 利息の負担がある奨学金)
下記のいずれかに該当すること
・高等学校等における学業成績が平均水準以上と認められる者
・特定の分野において優れた資質能力を有すると認められる者
・進学先の学校における学修に意欲があり、学業を確実に修了できる見込みがあると認められる者
・高等学校卒業程度認定試験合格者であること
出所:進学前(予約採用)の第一種奨学金の学力基準 | JASSO
出所:進学前(予約採用)の第二種奨学金の学力基準 | JASSO
② 家計基準(収入・所得上限額の目安)
世帯構成や「第一種」か「第二種」か、また「併用する場合」で、収入・所得の上限額が異なります。(図表1)自営業の方は算定基準が異なりますので、進学資金シミュレーター等で別途確認してください。
(図表1)

出所:進学前(予約採用)の第一種奨学金の家計基準 | JASSO
出所:進学前(予約採用)の第二種奨学金の家計基準 | JASSO
【給付奨学金】
① 学力基準 下記のいずれかに該当すること
・高等学校等における第1学年から申込時までの全履修科目の評定平均値が、5段階評価で3.5以上であること
・将来、社会で自立し、及び活躍する目標をもって、入学しようとする大学等における学修意欲を有することが、文書、面談等により確認できること
出所:進学前(予約採用)の給付奨学金の学力基準| JASSO
② 家計基準(収入・所得上限額の目安)
世帯構成により、収入・所得の上限額が異なります。(図表2)
収入の区分に応じて、支援金額は4段階になっています。自宅通学(私立大学)で第1区分の場合は、満額給付(月額38,300円)を受けることができます(図表3)。
給付奨学金は、家計基準に加え、保有している資産の上限基準もあります。
(図表2)

(図表3)

・資産基準
申込日時点の学生本人と生計維持者(2人)の資産額の合計が 2,000万円未満(生計維持者が1人のときは1,250万円未満)であること。現金や預貯金が対象となります。土地建物などの不動産や、貯蓄型の生命保険や学資保険は資産の対象となりません。
参考:日本学生支援機構 予約採用全体リンク 目的から探す | JASSO
奨学金の落とし穴
① 借りられない(受給できない)
奨学生として採用されるためには、採用基準を満たしたうえで、募集期間内に申込む必要があります。書類に不備があったり、家計基準を満たしていなかったりした場合は、申込みをしても不採用になることがあります。
予約採用の申込期限は、高校によって異なります。通学している高校の奨学金担当の先生にきちんと確認するようにしましょう。
家計基準に関しては「進学資金シミュレーター」を活用することをお勧めします。申込者の世帯や生計を維持している人の年収情報を入力することで、奨学金の対象となるか?どれくらいの奨学金を受けることができるかを調べることができます。
進学資金シミュレーター-JASSO
② 停止されるリスク
奨学生として採用され、大学生になった後も継続していくためには学業成績や学習状況においての基準を満たさなければなりません。毎年「適格認定」が実施され、結果によっては、奨学生としての認定が取り消しになったり、支給が停止されたりすることもあります。
区分としては「継続」「警告」「停止」「廃止」に分けられます。「廃止」になってしまった場合、給付奨学生としての認定は取り消されます。「停止」の場合は、いったん中断しますが復活できるチャンスがあります。
【貸与奨学金の適格認定】
毎年1回(12月~2月頃)スカラネットより「奨学金継続願」を入力する必要があります。これに基づき奨学金継続の可否が決まります。継続を希望しない場合も入力が必要です。また、年間を通じて奨学生としての適格性に疑義が生じた場合も適格認定が実施されます。
下記3つの要素で判断されます。
・人物について:奨学生として態度・行動がふさわしいか、将来良識ある社会人として活躍できる見込みがあるか等
・学業について:修業年限で確実に卒業できる見込みがあるか
・経済状況:就学継続のために貸与が必要と認められるか
適格認定 | JASSO
【給付奨学金の適格認定】
適格認定は「学業」(学年末に実施)「家計」(4月の在籍報告時)の両方で行われます。認定結果によっては、受給された奨学金の返還を求められることもあります。
【廃止になるケース】
① 学業成績の基準 下記のいずれかに該当する場合
• 修業年限で卒業できないこと(卒業延期)が確定した場合(※4)
• 修得単位数の合計数が標準単位数の5割以下の場合
• 出席率が5割以下など、学修意欲が著しく低いと学校が判断した場合
• 連続して「警告」に該当した場合
(2回目の「警告」事由が「GPA(平均成績)等が下位4分の1」のみの場合を除く)
※4「廃止」の基準にある「卒業延期」とは、学業成績不振により当初の卒業予定期では卒業できないことが確定した場合を言います。そのため、休学したことにより卒業が延期した期間については、「廃止」の基準にある「修業年限で卒業できないこと(卒業延期)が確定した場合」には当たりません。
出所:適格認定(学業等) | JASSOその他、停学、懲戒処分を受けた場合も、「認定取り消し」または「支給停止」の対象となります。
② 家計基準
給付奨学金申込時の家計基準と同じで、4月に行う在籍報告時に「収入基準」と「資産基準」を満たしているかの確認があります。基準を満たさず非該当となった場合、その年の10月分から翌年の9月分までの給付奨学金が停止となります。
出所:在学中の適格認定(家計) | JASSO
奨学金の仕組みを理解し、正しく活用しましょう
奨学金制度の説明をしていると「奨学金の貸与は途中でやめられますか?」と聞かれることがあります。経済的にゆとりができ、奨学金を借りる必要がなくなった場合、奨学金の利用を継続しない選択をすることは可能です。ただ、それ以上に気を付けていただきたいのは「貸与や給付を受け続けたいのに、基準を満たさなくなり停止される可能性があること」です。
特に給付奨学金を利用して進学された場合、成績不振により給付が停止されると、学費を払うことができなくなり、最終的には退学を余儀なくされる場合もあります。
奨学金制度は心強い仕組みではありますが、利用するためには規則があります。特に、貸与奨学金の場合、卒業後も長期にわたって約束通り返還し続ける義務があります。
奨学生として採用された後も、制度の仕組みをしっかり理解し、上手に活用するようにしましょう。
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- プロフィール : 合田 菜実子(ごうだ なみこ)
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ファイナンシャルプランナー(CFP® 1級FP技能士) 国家資格キャリアコンサルタント スカラシップアドバイザー(日本学生支援機構) マネキャリサポーター® 基礎心理カウンセラー
大学生の母。子育て期間中にファイナンシャルプランナー資格を取得。現在は、お金とキャリア教育の専門家として、子どもたちの豊かな未来のために金融経済教育に力を入れいてる。金融広報中央委員会、日本FP協会主催セミナー他、大学や小中高校におけるお金の授業、高校での教育資金準備講座など講演多数。著書は『教えて合田先生!18歳までに知っておきたいお金の授業』(C&R研究所) 『子育て主婦が知っておきたいお金の話(経法ビジネス出版』『小学生でもわかる、お金にまつわるそもそも事典』(C&R研究所 共著)など。
日本FP協会パーソナルファイナンスインストラクター
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WAFP関東女性FPの会 理事
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