「高等教育"無償化"制度」、わが家の学費もタダになる?
「高等教育」は高等学校卒業後の話
「高等教育」は、「高等」とついているものの、高等学校は含まれていません。中学校と高等学校は「中等教育」です。
「高等教育無償化制度」は、高校を卒業した後に学ぶ大学・短期大学・高等専門学校・専門学校(専修学校専門課程)が対象です。
報道で「無償化」という言葉が使われているので、大学生や専門学校生の教育費がタダになる印象を受けてしまいがちですが、審議されている法律案の名称は「大学等における就学の支援に関する法律案」となっていて、「無償」という言葉は入っていません。
制度の一部に「無償」になる場合があると理解するといいでしょう。
「無償化」のハードルは高い
制度の中身は2本立てで、①授業料と入学金の減免、②給付型奨学金の給付 となっています。
制度の対象者は高等教育を受ける者すべてではなく、「住民税非課税世帯及びそれに準ずる世帯」という条件をクリアした学生です。学校種別ごとに決まっている減免額の上限まで減免を受けられるのは、4人家族のモデル世帯で、年収約270万円までとなっています。
次の図の太い線で囲った金額が、非課税世帯の国公立大学の学生に当てはまる金額です。
住民税非課税世帯の国立大学生の場合、授業料と入学金の額が、減免される金額と同じになるため、結果的に「無償」になります。
ただし、国立大学生の減免額上限は法律で定められている国立大学の「標準額」です。東京工業大学は2019年入学者から授業料を標準額よりも約10万円値上げしますが、標準額を超えた分については対象外です。標準額よりも授業料が高い大学に入学する学生は、住民税非課税世帯であっても「無償」ではないのです。
私立大学は、入学金と授業料について国立大学の減免額をベースに私立大学の平均額を踏まえた計算が行われ、最大で入学金は約26万円、授業料は約70万円が減免になります。
私立大学の入学金平均額は約25万円、授業料は約90万円ですから、住民税非課税世帯であっても「無償」になりません。
その無償にならない部分を補いつつ、学生生活に必要な費用を援助する目的で給付型奨学金の拡充がはかられますが、保護者負担が「ゼロ円」になるほどの給付額とは言えないと感じます。制度の対象となれば助かるのは事実ですが、進学までの期間は油断せずに貯蓄を続けましょう。
学校選びと入学後の継続にも要注意
制度に該当するには、世帯収入が一定以下であることに加え、進学する学校が条件を満たしていることも必要です。
制度の対象となる学校であるかどうかについては、制度開始予定の2020年4月にあわせ、2019年夏以降に公表される予定ですので、かなり慌ただしいスケジュールです。
当たり前とも言えますが、なかなか厳しいと思われる条件を最後に一つ。
入学前は「高校在学時の成績だけで否定的な判断をせず、学習意欲や進学目的等で確認」となっているのですが、大学・専門学校への進学後は「学習状況について厳しい要件を課し、これに満たない場合は支援を打ち切る」となっています。
入口はやさしいのですが、入学後は厳しい対応が待っています。途中ではしごをはずされないよう、制度の中身を理解して、上手に利用してください。
- ハッシュタグで関連記事を見てみる
- #ファイナンシャルプランナー , #菅原直子 , #高等教育の修学支援新制度 , #高等教育の無償化
- プロフィール : 菅原 直子(すがわら なおこ)
-
ファイナンシャル・プランナー(AFP)、教育資金コンサルタント
会計事務所向けオフコン販売、外資系生命保険会社勤務・同代理店経営を経て、1997年よりファイナンシャル・プランナー。公私立高校や自治体などで保護者・生徒・教員のための進学資金セミナーおよびライフプラン講座・相談会は関東を中心に10年以上にわたって300回超。新聞や雑誌への取材協力や執筆、働けない子どもに関する家計の相談も行う。地元湘南地域密着のFP活動も展開中。3男子の母。
■著書
共著『子どもにかけるお金の本』(主婦の友社)
『子どもの教育費これだけかかります』(日労研)
■所属団体
日本ファイナンシャル・プランナーズ協会
子どもにかけるお金を考える会
働けない子どものお金を考える会